by 船戸和弥

片山正輝

 

funalogo.gif (2604 バイト)

 

更新日: 12/05/28

小脳、脳幹、視床、線条体の動脈

動脈系


 

01: Pericallosal artery 脳梁周囲動脈 (A. pericallosa)

 脳梁周囲動脈は前大脳動脈との吻合部から遠位側の本幹で終板槽の前方を上行した後、脳梁に沿って脳梁周囲槽内を脳梁膨大へ至る。終板槽前面を走る部位を脳梁下部infracallosal portion、脳梁に沿って脳梁周囲槽内を後方へ進み脳梁膨大部に至るまでの部位を脳梁上部supracallosal portionと呼んでいる。脳梁上部は脳梁縁動脈および後大脳動脈の枝である後脳梁動脈とは相補的な関係を有している。

 

02: Caudate nucleus 尾状核 (Nucleus caudatus)

 尾状核は全体として弓状の大きな灰白質である。尾状核の吻側部は視床の吻側に位置し、側脳室前角のなかに隆起してその外側壁をなし、尾状核頭とよばれる。後方で細くなって尾状核尾とよばれ、視床の背外側縁に沿って側脳室の中心部の底面の外側縁を走り、やがて側脳室の弯曲に沿って下方にまがり、側脳室下核の上壁に達し、扁桃体との後端部のレベルでその外側部に接しておわる。尾状核頭と尾状核尾の中間部を尾状核体という。神経細胞には、大きく分けて、大小2種類(1:20)のものがみられる。求心性神経線維の起始部の主なものは、大脳皮質・視床髄板内核・視床正中中心核・黒質である。黒質(とくに緻密部)からはドパミン作働性の神経線維を受ける。尾状核からの遠心性神経線維の主な分布域は淡蒼球と黒質(とくに網様部)であり、これらの多くのものはGABA作働性である。

 

03: Internal capsule 内包 (Capsula interna)

 内包は外側のレンズ核と内側の尾状核および視床との間にある、大きい線維束の集団で、その大部分は下方に集まって大脳脚に移行する。内包は大脳半球の水平断でみると、内包前脚と内方後脚からなり、これらは鈍角をなして交わり、内包膝の名で知られる接合部を形成する。内包前脚はレンズ核と尾状核の間にあり、また内包後脚(レンズ核視床部)はレンズ核と視床の間にある。内包のレンズ後部は尾方に、レンズ核の少し後ろにまで伸びる。この尾方の領域にはレンズ核の下を通って側頭葉に達する一群の線維があり、これらはまとまって内包のレンズ下部sublenticular portionを形成する。

 内包は、大脳皮質と脳幹や脊髄を連絡する上行性伝導路と下行性伝導路が密集して必ず通る場所であり、しかも出血を起こしやすいので、臨床的にきわめて重要である。中風とか脳溢血(脳卒中cerebral apoplexy)の際の出血は、内包に起こることが圧倒的に多い。

 

04: Thalamus; Dorsal thalamus 視床;背側視床 (Thalamus)

 視床は、背側間脳溝と視床下溝の間の領域であるが、発生の間に大きく発育して、間脳背側部の広い範囲を占めるようになる。間脳は個体発生上、背側視床、腹側視床、視床下部および視床上部の四つの部位に分けられるが、その中で最も大きな部位を占めるのが背側視床である。単に視床といった場合は背側視床を指す。視床は第三脳室の両壁をなす卵円形の構造で、背側の遊離面は薄い髄質から成る帯層におおわれ、肺内側端に視床上部の構造である視床髄条が、前端より後方に走り手網核に付く。また背外側端は分界条によって終脳の尾状核と、外側方は外髄板によっておおわれ腹側視床の視床網様核と境されている。左右の視床は第三脳室内にまたがる視床間橋(中間質)によってつながり、視床下溝で視床下部と境される。視床の内部を構成している視床核は視床脚を介して大脳皮質と相互に結合する。内部には内髄板とよばれる線維板視床を内側部、外側部および前部に分けている。視床は感覚系と統合系との非常に重要な連絡部位である。嗅覚路以外のすべての感覚路がそれぞれ相当する視床の領域に投射する。「最近の研究によれば、嗅覚系も視床を投射する可能性がある」。視床で処理された感覚系情報の流れは視床大脳皮質線維を経て大脳皮質へと送られるが、大脳皮質の側からは多数の大脳皮質視床線維を介して視床における情報処理系に影響が及んでおり、したがって、視床と大脳皮質とは一つの機能単位としてはたらく。「運動」情報は小脳と大脳基底核を経て伝達され、統合系(大脳辺縁系や脳幹網様体など)からのさらに複雑な情報も視床に達する。したがって、視床は一方では大脳辺縁系と脳幹網様体との連結点として機能し、他方では大脳皮質も連絡しているわけである。

 

05: Putamen 被殻 (Putamen)

 被殻はレンズ核の外側部を形成し、外側髄板によって淡蒼球の外節とへだてられている。島皮質とは最外包、前障、外包によってわけられる。被殻の構造は尾状核とまったく同様で、太い有髄線維をほとんど含まず、主として小さい神経細胞からなるが、散在性の大細胞を含む。被殻と尾状核は発生学的にみると、同一の細胞群が内包の発達によって隔てられたもので、両者の間には互いに結合する灰白質の線条が多数見られる。そのため、両者をあわせて線条体または新線条体と呼ぶ。線維連絡も尾状核と原則的に等しい。霊長類において動物が高等になると、相対的な意味で尾状核の体積が減少し、被殻の体積が増大するといわれている。

 

06: Anterior cerebral artery 前大脳動脈 (Arteria cerebri anterior)

 前大脳動脈は、視交叉と視神経の外側で内頚動脈から分岐する。左右の前大脳動脈は視神経の背側を前内側方向に走り、相互に近づき、前交通動脈によって連結する。前大脳動脈は、大脳縦裂の間に入り、大脳の内側面を上方に向かい、つづいて脳梁の背側面を後方に向かう。前大脳動脈は、大脳縦裂の間に入り、大脳の内側面を上方に向かう。前大脳動脈は、途中で次のような枝を出す。すなわち①内側線条体動脈、②眼窩枝、③前頭極動脈、④脳梁辺縁動脈、⑤脳梁周囲動脈である。前大脳動脈の異常は約25%の脳にみられる。このなかには前大脳動脈が1本しかないもの、枝が反対側の大脳半球に分岐する例もある。

 一側の前大脳動脈の本幹が閉塞すると、下肢に最も強い対側性麻痺が起こる。両側の前大脳動脈の閉塞は、両側麻痺、特に下肢の両側性麻痺と脊髄疾患に類似の知覚障害をともなう。

 

07: Lateral branches of Anterolateral central arteries(前外側中心動脈の外側枝)Rami laterales

 Proximal lateral striate branches of anterolateral central arteries 前外側中心動脈の線条体外側近位枝 (Rr. proximales laterales striati) のことで、レンズ核の外側を内包と尾状核へいたる。

 

08: Rami mediales(前外側中心動脈の内側枝 Medial branches of Anterolateral central arteries)

 Distal lateral striate branches of anterolateral central arteries 前外側中心動脈の線条体外側遠位枝 (Rr. distales laterales striati) のことで、レンズ核を通り尾状核と内包にいたる。

 

09: Sphenoid part of middle cerebral artery; Horizontal part of middle cerebral artery; M1 segment of middle cerebral artery (中大脳動脈の蝶形骨部;中大脳動脈の水平部;中大脳動脈のM1区域 (Pars sphenoidalis; Pars horizontalis; Segmentum M1)

 中大脳動脈の蝶形骨部は最初の部分。ほぼ蝶形骨小翼に平行に走る。 中大脳動脈のM1区と呼ばれている。

 

10: Optic nerve [II] 視神経;第二脳神経 (Nervus opticus [II])

 視神経は眼球網膜の第8層である神経細胞層中にある多極神経細胞から出る神経線維が集まって出来る神経である。すなわち杆状体細胞および錐体状細胞よりの興奮は網膜の内顆粒層の双極細胞に伝わり、それがさらに神経細胞層の細胞に連絡し、この神経細胞の出す神経突起である線維はまず眼球の後極よりやや内下方の一ヶ所に集まって、視神経円板を作り、強大な神経幹となり、網膜の続きである視神経鞘に囲まれて後内側に向かう。眼球から約15~20mm隔ったたところで、眼動脈の枝である網膜中心動脈およびこれに伴う静脈が外側から入り込み、その中軸を通って網膜に分布する。左右両側の視神経は眼窩後端の視神経管を通って頭蓋腔に入り、次第に相近づいて蝶形骨体上の視神経溝でほぼ半交叉をして視交叉を作り、そのつづきは視索と名が変わって間脳の外側膝状体および中脳の上丘などの第一次視覚中枢に達して、ここで終わる。網膜が眼胚から発達するので経路に相応する。ヒトの視神経は眼球網膜の神経細胞層中にある多極神経細胞から出る100万本以上の神経線維からなる。すなわち、杆状体細胞および錐体状細胞よりの興奮は網膜の内顆粒層の双極細胞に伝わり、それがさらに神経細胞層の細胞に連絡し、この神経細胞の出す神経突起である線維はまず眼球の後極よりやや内下方の一ヶ所に集まって、視神経円板を作り、強大な神経幹となり、網膜の続きである視神経鞘に囲まれて後内側に向かう。眼球から約15~20mm隔ったたところで、眼動脈の枝である網膜中心動脈およびこれに伴う静脈が外側から入り込み、その中軸を通って網膜に分布する。左右両側の視神経は眼窩後端の視神経管を通って頭蓋腔に入り、次第に相近づいて蝶形骨体上の視神経溝でほぼ半交叉をして視交叉を作り、そのつづきは視索と名が変わって間脳の外側膝状体および中脳の上丘などの第一次視覚中枢に達して、ここで終わる。

 

11: Cerebral part of internal carotid artery 内頚動脈の大脳部 (Pars cerebralis)

 内頚動脈の大脳部は内頚動脈が海綿静脈洞から現れ出るところから始まり、蝶形骨の前床突起の内側を通る。この大脳部の血管は上方に向かったのち後方に走るが、ここから内頚動脈の重要な枝がすべて出る。

 

12: Posterior communicating artery 後交通動脈 (A. communicans posterior)

 後交通動脈は内頚動脈から起こり、視床、大脳脚、脚間部、海馬回に分布する。後大脳動脈と吻合し大脳動脈輪をつくる。

 

13: Hypothalamic branch of posterior communicating artery 後交通動脈の視床下部枝 (R. hypothalamicus)

 後交通動脈の視床下部枝は視床下部へ分布する。

 

14: Anterior choroidal artery 前脈絡叢動脈 (A. choroidea anterior)

 前脈絡叢動脈は後交通動脈の分岐部よりさらに遠位の内頚動脈から通常分岐する。この動脈の特徴は、クモ膜下腔を長い距離を走り、しかも直径が比較的小さいことである。前脈絡叢動脈ははじめ尾方に走って視索を横切り、次いですぐに側頭葉の前内側面に向かって外側方向に走る。つづいて脈絡叢を通過して、側脳室の下角に入る。この動脈が分布する部位として、脈絡叢のほかに、海馬体、淡蒼球の内側および外側領域(すなわち内側部の外がわと外側部の内がわ)、内方後脚の腹側部の大部分、内包のレンズ核後部全体などが含まれる。またこの動脈の小さい枝は、視索、扁桃体の一部、尾状核尾の腹側部、被殻の後部、視床の腹外側領域にも分布する。

 前脈絡叢動脈は細いが、広い分布域をもち、クモ膜下腔で長い走行をとるので、血栓が生じやすいといわれる。この動脈の循環障害でとくに淡蒼球・海馬が侵されやすいといわれる。

 

15: Thalamic branch 後交通動脈の視床枝 (Ramus thalamicus)

 前下視床枝は下から視床にいたる長い枝。

 

16: Posteromedial central arteries from posterior communicating artery 後内側中心動脈 (Aa. centrales posteromediales)

 後内側中心動脈は、後交通動脈の全長と後大脳動脈の起始の近位部から分岐する。この後内側中心動脈の枝のうちで、吻側の枝は、視床下部の下垂体、漏斗、灰白隆起に血液を供給する。吻側の枝のなかで深部に穿通する枝は、視床の前部と内側部に分布するので、視床穿通動脈thalamoperforting arteriesとも呼ばれる。また尾側から出る枝は、乳頭体や腹側視床の領域、また視床の内側核群にも分布する。さらに最も尾側からの分枝は、中脳被蓋と大脳脚の内側部に分布する。

 

17:Branches to anterior perforated substance 前脈絡叢動脈の前有孔質枝 (Rr. substantiae perforatae anterioris)

 前脈絡叢動脈の前有孔質枝は内包までいたる枝。

 

18: Posterior medial choroid branches of posterior cerebral artery 後大脳動脈の内側後脈絡叢枝;内側後脈絡叢動脈 (Rr. choroidei posteriores mediales)

 内側後脈絡叢動脈は中脳をとり巻いて松果体の領域に達し、中脳視蓋、第三脳室脈絡叢、視床の上面と内側面に枝を出す。

 

19: Postcommunicating part of posterior cerebral artery 後大脳動脈の交通後部;後大脳動脈のP2区域;後交通動脈後部 (Pars postcommunicalis)

 後交通動脈のうち後交通動脈より前方の部分。

 

20: Posterior lateral choroid branches 後大脳動脈の外側後脈絡叢枝;外側後脈絡叢動脈 (Rr. choroidei posteriores laterales)

 外側後脈絡叢動脈は脳幹の一部をとり巻いて脈絡裂に入り、側脳室にある脈絡叢に分布する。また外側後脈絡叢動脈の枝には、前脈絡叢動脈の枝と吻合するものがある。

 

21: Medial occipital artery; P4 segment 内側後頭動脈;後大脳動脈のP4区域 (A. occipitalis medialis; Segmentum P4)

 内側後脈絡叢動脈は中脳をとり巻いて松果体の領域に達し、中脳視蓋、第三脳室脈絡叢、視床の上面と内側面に枝を出す。

 

22: Dorsal branch to corpus callosum 内側後頭動脈の背側脳梁枝;後脳梁周囲動脈 (R. corporis callosi dorsalis)

 後脳梁周囲動脈は通常、頭頂後頭動脈から分岐し、脳梁膨大部に沿って後方へ凸の弧を描きながら上行した後、脳梁に沿って前方へ走り、前大脳動脈の枝である前脳梁周囲動脈と吻合する。

 

23: Superior vermian branch 上小脳動脈の上虫部枝;上虫部動脈 (A. vermis superior)

 上虫部枝は上小脳動脈の終枝で通常2~3本の動脈からなる。小脳虫部に沿って正中線上を後方へ走る。対側の上虫部枝、後下小脳動脈の後下小脳動脈の下虫部枝との間に吻合が見られる。

 

24:Medial branch; Medial superior cerebellar artery 上小脳動脈の内側枝 (R. medialis)

 上小脳動脈の内側枝は小脳の虫部の上部とこれに近接した領域に分布する内側枝。

 

25:Lateral branch; Lateral superior cerebellar artery 上小脳動脈の外側枝;上小脳外側動脈 (R. lateralis)

 上小脳動脈の外側枝は小脳半球上面に血液を送る。

 

26: Inferior colliculus 下丘 (Colliculus inferior)

 下丘は中脳蓋を形成する二対の隆起(四丘体)のうち下方の一対をいう。下丘は聴覚系の中脳における中継核で、細胞構築および機能的に中心核、外側核および周囲核の三つの核からなる。下丘核は外側毛帯を介して蝸牛神経核および台形体核から線維を受け、下丘腕を通って両側性に視床の内側膝状体へ線維を送る。

 

27: Peduncular branches of posterior cerebral artery 後大脳動脈の脚枝;後大脳動脈の大脳脚枝;後大脳動脈の中脳枝 (Rr. pedunculares)

 後大脳動脈の大脳脚枝は、ほぼ正中線上で後有孔質を貫く血管群、直接大脳脚へ入る血管群、中脳周囲を走りながら中脳を栄養する血管群、などがみられるが、実際の血管撮影で同定することは困難である。いずれも脚部から分枝する。

 

28: Oculomotor nerve [III] 動眼神経 ;第三脳神経 (Nervus oculomotorius [III])

 動眼神経の主成分は動眼神経主核から出る体性運動性のもので外側直筋および上斜筋以外の眼筋を支配するが、このほかさらに副交感性の動眼神経副核[Edinger-Westphal核]から出る線維が加わる。以上の2核から出る線維は多数の根をつくって大脳脚内側溝から出て1神経幹となり、滑車神経、外転神経および眼神経とともに、蝶形骨体の両側にある海綿静脈洞の上壁に沿ってすすみ、上眼窩裂を通って眼窩内に入り、上下の2枝に分かれる。上枝は上瞼拳筋および上直筋に、下枝は内側直筋、下直筋および下斜筋に分布する。また下枝からはきわめて短い動眼神経からの根が出て、毛様体神経節に入るが、これは動眼神経副核から出て、下枝を通って毛様体神経節に入る副交感線維にほかならない。

 動眼神経を完全に損傷すると、その支配を受ける同側の筋に下部神経麻痺が生じる。すなわち、眼瞼拳筋麻酔によって眼瞼は完全に下垂する(伏し目になる)。支配外眼筋の麻痺と外側に転位(外斜視)する。瞳孔は完全に散大し(散瞳)、瞳孔対光反射およびレンズの調節も消失する。後2者は症状は内臓性遠心線維の切断によって起こる。動眼神経と中脳腹側部の皮質脊髄路の線維を損傷すると、同側の動眼神経麻痺と対側の片麻痺を起こすが、これを臨床的にWeber症候群という。この症候群はまた上追う胎生片麻痺として知られ、外転神経と皮質脊髄路を含む橋の障害(中交代性片麻痺)および舌下神経と錐体を巻き込んだ延髄の障害(下交代性片麻痺)の際に起こる症候群と同様である。

 

29: Basilar artery 脳底動脈 (A. basilaris)

 脳底動脈(BA)は左右の椎骨動脈は脊髄の腹側面で合一して1本の脳底動脈となる。脳底動脈は脳底を前進し、橋の前縁で左右の後大脳動脈に分かれる。小脳前下面に前下小脳動脈を、内耳に迷路動脈を、橋に数本の橋枝を、小脳上面に上小脳動脈を与える。左側の椎骨動脈は通常は右側の椎骨動脈よりもずっとよく発達している。そのため、大きい方の椎骨動脈が閉鎖すると重大な結果を招くことがある。脳底動脈は橋底面の正中部にある脳底溝の中を吻側に走り、鞍背のレベルで2本の終枝、すなわち後大脳動脈に分岐する。後大脳動脈と後交通動脈との吻合によってウィリスの動脈輪が閉じる。

 脳底動脈の完全あるいは部分的な血栓により、筋緊張の急激な消失、対光反射と関係のない瞳孔の散大または縮小、両側性のBabinski反応の出現が起こる。神経系の障害は、通常両側性であるが、非対称性で、ある程度症状に変動を示すこともある。

 

30: Medial branches; Paramedian pontine branches 橋動脈の内側枝;橋動脈の傍正中橋枝 (Rr. mediales)

 橋動脈の傍正中橋枝は橋核、皮質脊髄路、皮質橋路、皮質脊髄路が存在する橋の内側領域に分布する。またこれから更に細糸が分岐して、橋被蓋の腹内側部に血液を供給する。

 片側の脳底動脈の傍正中橋枝が突然閉塞すると橋底部の損傷の結果、対側性麻痺と同側性の動眼神経根の線維の損傷が起こる。このような通例の損傷は、中交代性片麻痺である。

 

31: Lateral branches; Circumferential pontine branches 橋動脈の外側枝;橋動脈の周囲橋枝 (Rr. laterales)

 橋動脈の外側枝は橋の前面を外側方向に走り、前下小脳動脈の小さな枝と吻合する。この橋動脈の外側枝は、橋被蓋の大部分に分布するほか、中小脳脚の外側部分にも分布する。橋被蓋の尾側部位には橋動脈の外側枝と前下小脳動脈との枝が分布し、橋被蓋の吻側部位には橋動脈の外側枝と上昇脳動脈の枝が分布する。これらの動脈の枝が分布する領域には、毛様体、内側毛帯、内側縦束、脊髄視床路、脊髄症の迂路、中小脳脚、上小脳脚、橋にある脳神経核などが存在する。

 橋動脈の外側枝と橋被蓋に分布するその他の動脈が閉塞を起こすと、脳神経障害、眼球の共同運動の不全麻痺、対側性の片側感覚麻痺同側性の小脳障害などが起こり、また眼球振盪を伴うことも多い。

 

32: Trigeminal nerve [V] 三叉神経;第五脳神経 (Nervus trigeminus [V])

 三叉神経は知覚部と運動部とからなる混合神経で脳神経中もっとも大きい。その知覚部は頭部および顔面の大部分に分布し、運動部は深頭筋、咀嚼筋、顎舌骨筋および顎二腹筋の前腹を支配する。その核は菱脳中に位置し、体性運動性の三叉神経運動核、知覚性の三叉神経主知覚核および三叉神経脊髄路核ならびに咬筋の筋知覚を司るといわれる三叉神経中脳路核などに分けられるが、これから出る線維のなかで、知覚神経線維は集まって知覚根[大部]を作り、運動神経線維は集まって運動根[小部]を作り、橋と中小脳脚との移行部において脳を去る。知覚根は側頭骨錐体部の三叉神経圧痕の上で大きい三叉神経節[半月神経節]を作り、これを出てから眼神経、上顎神経、下顎神経の3枝に分かれる。運動根は三叉神経節の下面の内側に沿って前進し下顎神経に合する。三叉神経は3枝に分かれた後にもおののの神経節を有し、眼神経には毛様体神経節、上顎神経には翼口蓋神経節、下顎神経には耳神経節および顎下神経節がある。これらのうち三叉神経節は脊髄神経節と同じ構造で体性神経系に属するが、他の神経節はその構造上から自律神経系に属するものである。

 アルコールなどのツーンとした刺激は三叉神経の鼻腔への知覚枝でも感じ得ると言われる。

 

33: Anterior inferior cerebellar artery 前下小脳動脈 (A. inferior anterior cerebelli)

 前下小脳動脈は脳底動脈の尾側部から分岐する大きな動脈で、橋被蓋の尾側部に分布した後、尾方に走ってから外側に向かい小脳下面に至る。この動脈は虫部錐体、虫部隆起、片葉、小脳半球の下面の一部に分布する。また深部に穿通する枝は、歯状核の部分とその周囲の白質に分布する。おの前下小脳動脈の枝には、第四脳室脈絡叢に分布するものもある。

 

34: Vestibulocochlear nerve [VIII] 内耳神経;前庭蝸牛神経;第八脳神経 (Nervus vestibulocochlearis [VIII])

 内耳神経は内耳に分布する知覚神経で、その終止核は延髄および橋背部にある。2根、すなわち上根(前庭根)と下根(蝸牛根)とをもって、橋の下縁で顔面神経の外側において脳を去り、合して半月状の断面をなして顔面神経を外側から包んで内耳道に入り、ここで上根は前庭神経に、下根は蝸牛神経に移行する。

 

35: Labyrinthine arteries 迷路動脈 (A. labyrinthi)

 迷路動脈は内耳道を通って迷路にはいる前下小脳動脈の前で脳底動脈の分枝。耳神経とともに内耳道を通り錐体中へ入り、ここで分枝し内耳へ分布する。

 

36: Facial nerve [VII] 顔面神経;第七脳神経 (Nervus facialis [VII])

 第7脳神経は広義の顔面神経にあたり、狭義の顔面神経と中間神経とを合わせたもので、混合神経である。その主部をなす狭義の顔面神経は運動神経で、起始核たる顔面神経核は延髄上部から橋背部にかけてあり、これから出る神経は橋の後縁で脳を去り、内耳神経とともに内耳道に入り、その底で内耳神経と分かれ、内耳神経と分かれ、顔面神経管孔を経て顔面神経管に入り、間もなく殆ど直角をなして後外側に曲がる。この曲がるところは鼓室前庭窓の後上で顔面神経膝といい、ここに膝神経節がある。ついで弓状に後下方へ走り、茎乳突孔を通って頭蓋底外面に出て耳下腺中に入り、耳下腺神経叢を作った後、つぎつぎに多くの枝を出して広頸筋およびこれから分化したすべての浅頭筋(表情筋)、茎突舌骨筋、顎二腹筋後腹、アブミ骨筋などに分布する。以上の運動神経線維とは別に、膝神経節中の神経細胞から出る味覚神経線維が集まって、舌下腺および顎下腺に至る副交感性の分泌線維とともに中間神経を作り、広義の顔面神経の一部をなす。膝神経節細胞は偽単極性で、神経細胞より出る一条の突起はただちに分かれて、末梢および中枢の2枝となる。中枢枝は顔面神経に密接しつつ内耳道を経て脳に入って孤束核に終わり、末梢枝は、いわゆる上唾液核から出て舌下腺、顎下腺に至る副交感性の分泌腺にとともにいわゆる鼓索神経を作り、途中で再び分泌線維と分かれて舌神経に入り、舌体に分布して味覚を司る。

 

37: Lateral medullary branches of vertebral artery 椎骨動脈の外側延髄枝 (Rr. medullares laterales)

 椎骨動脈の内側・外側延髄枝は橋の下縁の錐体、舌下神経核の頭方部分、および下オリーブ核群の大部分に分布する。またこの延髄枝は、網様体、孤束核や迷走神経背側核(運動性)などの領域にも分布する。延髄の尾方の高さから出る椎骨動脈の枝は、実質的には延髄の錐体と楔状束との間の延髄の外側領域全部に分布する。延髄には2種類の型式の動脈が入ってくる。その1つである短い動脈は、小さい枝であって、三叉神経脊髄路、脊髄視床路、脊髄小脳路に分布し、一方長い動脈は深部の領域に分布する。この長い動脈のあるものは、第四脳室底にまで達する。延髄枝が分布する延髄領域には、外側延髄症候群に関係する部位を含んでいる。

 

38: Vertebral artery 椎骨動脈 (Arteria vertebralis)

 椎骨動脈(VA)は鎖骨下動脈から最初に出る枝であり、前斜角筋の後面に沿って上行し、6番目の頚椎(ときには5番目の頚椎)の横突孔を通って上行するが、そのさい、椎間孔から出てくる脊髄神経の腹側方に位置する。やがて、椎骨動脈は外側方に曲がり、孔環椎後頭膜を貫通し、大後頭孔を通り、硬膜を貫いて後頭蓋窩にはいる。頭蓋窩にはいる少し前に椎骨動脈が示す弯曲は「予備」のループであって、頭部の運動時に動脈に張力が加わるのをふせいでいる。橋の下縁のレベルで、両側の椎骨動脈が1本になって脳底動脈が形成される。形態学的にみて椎骨動脈と内頚動脈はよく似ている。すなわち、外形動脈を分枝する以外には重要な枝を出さずに両者とも垂直に上行する。また、両者ともに特徴的な曲がりくねったコース(「頚動脈サイフォン」、「椎骨動脈サイフォン」)をとって脳底に達する。両者の主な差異は、左右の椎骨動脈が合して1本の脳底動脈になるのに対して、内頚動脈の方は左右のものがそれぞれ独立に走る点である。しかし、流体力学的に見ると、左右の椎骨動脈から脳底動脈に流入する血液は混合することはなく、左側椎骨動脈からの血液は脳幹の左側を流れ、右側椎骨動脈からの血液は脳幹の右側を流れる。

 椎骨動脈は頭蓋腔内に入ったのちに、延髄と橋のあたりで左右のものが合流して、無対性の脳底動脈にある。したがって、動脈硬化症などで鎖骨下動脈が椎骨動脈起始部よりも内側(心臓寄り)で閉塞すると、健側の椎骨動脈内の血流が脳底動脈を介して患側の椎骨動脈の方に逆流して、患側上肢への側副循環路collateral pathwayになり得る。その結果として、脳底動脈そのものの働きが不十分になるので、患側の上肢を動かすとめまいや一過性の失明、あるいは失神発作などの症状を起こすことがある。これを鎖骨下動脈スチール症候群subcalvian steal syndrome(椎骨動脈逆流症候群)という。

 

39: Spinal root of accessory nerve; Spinal part of accessory nerve 副神経の脊髄根 (Radix spinalis; Pars spinalis)

 副神経の脊髄根は第1から第5(又は第6頚髄前角の細胞柱より起こる。この細胞から出た根線維には後外側方に弧を描き、脊髄外側面を後根と前根の間から出る。副神経脊髄根の各根線維は集まって1本の神経幹となり歯状靱帯の後方を上行し、大(後頭)孔を通って頭蓋腔に入り、最後は頚静脈孔を通って迷走神経、舌咽神経と共に頭蓋から外に出る。副神経脊髄根の線維は同側の胸鎖乳突筋と僧帽筋の上部を支配する。1側の胸鎖乳突筋の収縮は頭を反対側に向けるが、1側の副神経脊髄根の損傷は通常頭部の位置になんら異常を起こさない。しかし、外力に逆らって反対側に頭部を向ける力は著明に弱くなる。僧帽筋上部の麻痺は次の症状でわかる。すなわち①肩甲骨が下外方へ回る。②傷害側の肩が中等度下がる。

40: Posterior inferior cerebellar artery 後下小脳動脈 (A. inferior posterior cerebelli)

 後下小脳動脈は椎骨動脈から分枝し、延髄の表面に沿って前外側方向に走るが、その途中で延髄の背外側領域に分布するため穿通する細い枝を出す。この延髄の後オリーブ領域には、脊髄視床路、三叉神経脊髄路核と三叉神経脊髄路、疑核、運動性迷走神経背側核とこの核に出入りする線維、および下小脳脚の腹側部分などが存在する。また延髄と橋のこの領域内には、視床下部からの自律神経線維も下行する。次いで、小脳下面を上方(背側)へ弯曲して走り、虫部の下部(虫部垂と虫部小節)、小脳扁桃、小脳半球の下外側面に分布する枝を出す。またこの動脈の内側枝は第四脳室脈絡叢にも分布する。

 後下小脳動脈の血栓による閉塞は延髄に起こりやすい。この場合には延髄外側部を侵す。ここには三叉神経核、蝸牛神経核、前庭神経核、疑核、迷走神経核、孤束核があり、また中枢交感神経路、前脊髄神経路、外側脊髄視床路が通るために、特徴的な症状が起こる。後下小脳動脈または延髄の後外側部の損傷として、外側延髄症候群lateral medullary syndromeが起こる。この損傷の特徴は①顔面(同側性)と体幹(対側性)の痛覚と温度覚の消失、②咽頭と喉頭の同側性麻痺、③同側性のHorner症候群などである。



   
SEO [PR] !uO z[y[WJ Cu